カヌー犬・ガク野田 知佑(著)
小学館 ¥ 460 [文庫] 1997-12 ISBN:9784094110210 / ASIN:4094110216 |
藤門弘さんの『犬もゆったり育てよう』(新潮OH!文庫/新潮社)にガクのことが書いてあった。犬好き、アウトドア派のこの人が相当に憧れているガクという犬はいったいどんな犬なのか、興味を持った。カヌー犬というのは聞いたことがある。そういえば、何年か前にCMに出演していた。それがガクだったのだ。
ガクはシェパードの雑種で、カヌーイストの野田さんと共に、国内外の様々な場所に行き、カヌーに乗って川を下った。何頭かの子どもを残し、13歳で亡くなった。
野田さんが旅に連れて行けないときなどは、友人の椎名誠さんが預かっていたため、実父が野田さん、養父が椎名さんなのだそうだ。そして、ガクという名はこの養父の息子の名前、岳(がく)をもらったのだそうだ。椎名家では人ガク、犬ガクと呼んでいた。ややこしい。
ガクは小さいころからリードを着けずに一日中自由に野山を走り回っていたので、体は丈夫だった。放し飼いって本当はダメなんだけどね。まぁいいいや。それで、飛行機に乗って世界のあちこちに行った。ときにはインディアンの村に「留学」したり、クマと闘ったり、映画に出演したりした。
野田さんはガクを旅に連れて行くために生の魚を食べさせる訓練をしたりしていた。なかなか用意周到だ。カヌーの旅では一日中こぎ続けてほとんど岸に上がらないこともあるらしい。そんなとき、ガクは舟の上に飽きると自分で泳いで岸まで行って、舟と併走したらしい。その途中で鳥の巣などを見つけて卵を食べたり、動物の匂いを嗅いだりする。それに飽きるとまた泳いで舟まで戻ってくるのだ。
この本は、野田さんの著作からガクに関するものを集めたもの。だから重複しているエピソードもあるのだけど、ガクの魅力は十分すぎるほど伝わってくる。そして、確かにガクはすばらしい犬だけど、そのガクの周囲の人々がとても魅力的だ。
だいたい、椎名誠の仲間って不良おやじというか、いつまでも子どもというか…。でもなぜか魅力的なおやじ集団なのよね。いい大人がそこまで遊びに真剣になる? みたいな。でもそれがかっこいいのだ。「真剣に遊ぶ」というのがポイント。ガクの映画を撮るのだって、内容はくだらないのに、仕事は真剣なのだ。
ガクを見る野田さんの目はやさしいけれど、過保護でもなく、服従させるでもなく、パートナーとして対等な目線。お互いに信頼しあっているよう。そして、ある意味、放任主義。こういう、犬との関係もあるんだなぁ。人間ではなく、犬だからこそ築ける関係なのかもしれない。わざわざ犬を連れて川下りしなくても、と言う人もいたらしいけれど、人ではなくて犬だからいいのだ。ひとりではなく、パートナーがいる旅というのもいい。 |